地域の話題

職人の心意気原動力に 松本の支援事業所で利用者が刺し子製品作り

ちくまが手掛ける刺し子製品の数々

 障害者支援の多機能型事業所・ちくま(松本市宮田)が、伝統的な刺しゅう技法「刺し子」の製品作りに力を入れている。定番の布巾やバッグに加え、端切れを活用したおしゃれなアクセサリーや小物作りにも新たに着手。あか抜けした風合いは幅広い世代の目に留まり、今春から販路拡大の模索も始めた。一針一針丁寧に縫い進める利用者たちにとって、原動力は"職人"としての誇りと喜びだ。

 6月上旬の平日、事業所を訪ねると、利用者たちは布を手に黙々と針を動かしていた。さらしの綿布を重ね、色とりどりの糸で刺し縫いしながら、細かな模様を描いていく。縫い目は数ミリ単位。きちょうめんに、根気よく作業し妥協がない。ある女性利用者(39)は「買ってくれる人のことを考えるとうれしくなる。刺し子の作業が好き」とはにかんだ。
 ちくまが刺し子を始めたのは20年ほど前。オリジナルの製品をと取り入れたが当初は皆手が動かず雑巾程度しか縫えなかったという。それでも一人一人の特性に配慮しながら継続することで上達。県民芸協会の目に留まり、松本民芸館で毎春開かれる「用の美市」への出店を打診された。文様の美しさに加え、刺し子の布地は丈夫で吸水性にも優れる。多くの来場者に喜ばれ、追加注文を受けるまでになった。
 昨年からはスタッフの提案で、製品バリエーションも充実。ヘアアクセサリーやブローチ、ピアス、ストラップなど刺し子の温かみを生かした一点物は若者にも人気だ。事業所玄関口での展示販売に加え、今後は地域のイベント出店も増やしていく。
 「まずは手にとってほしい」との思いから価格設定は控えめだが、数が売れれば利用者の工賃に反映できる。何より「励みや自信、喜びにつながる」と柳澤秀香施設長は話し「利用者たちは職人の心意気で取り組んでいる。製品の魅力を多くの方に知ってもらいたい」と願っている。