連載・特集

2024.4.22 みすず野

 夫婦だけで切り盛りしている飲食店は、うまく説明できないけれど、なんとなく好感が持てる。一日中、ほとんど顔を合わせているのがうっとうしいこともあるだろうとも思うが、それはきっと余計なお世話◆先日、初めて入ったラーメン店がそうだった。清潔な店内、窮屈ではないテーブルや椅子の配置。「いらっしゃいませ」の声がほどよい大きさでほっとする。応援団のような大声は苦手。気が利いた席の案内に安心する◆客はほかに誰もいなかったが、何点か売り切れていた。頼んだ品はすぐ運ばれてきた。見た目は正統的とでもいえばいいのか、昔からあるスープの色と細い麺、具がのる。味は見た目と同様だが、この店独自の個性も打ち出していておいしくいただいた◆常連になっても、入店して目礼する程度のままでいたい。居酒屋はそうはいかないが、昼食に立ち寄る店はその程度がもっとも居心地がいい。全く声を出さずに黙々と調理する主人がいる店があって、夫人が時々「あいさつくらいしてよ」とぶつぶつ言っていたのがほほ笑ましかった。よく通った30年ほど前のこと。今は子どもが店を継いで、ずいぶん繁盛している。

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