連載・特集

2024.2.24 みすず野

 松本市梓川上野に、昭和20(1945)年にフィリピンで30代半ばの若さで戦火に散った地元出身の斎藤梓の歌碑が立つ。里山を背にして田畑が広がる農道沿いにあり、刻まれた歌が周囲の景観によくなじむ。「ひかぎれる雪原ゆむれてとぶからす山にちかづきこゑ高くなく」。日のかげった雪野原から群れて飛び立つカラスは山の方に近づいて声高く鳴いていることだとの意だが、寒風の吹くたそがれ時に碑の前にたたずむと、歌の世界観が心にしみて白いため息が漏れる◆梓の13年詠の「鋸入れむと松の大樹に手をふれぬ粗き木肌に没り日のぬくき」は、激動の昭和史を4万5000首の短歌で振り返った『昭和万葉集』(講談社)に採られている。農村歌人と呼ばれるにふさわしい歌を多く残した◆ロシアがウクライナへの本格的な軍事侵攻を始めて丸2年がたつ。いまだ終戦の道筋は見えず、貴い命が犠牲になっている。さまざまな形で社会に寄与する可能性を持った人たちが、理不尽に亡くなっているのだ◆梓が戦争のない時代を生きて長寿を得たなら、地域の文化発展にどれだけ寄与したか。してもいい戦争などあるわけがない。

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