連載・特集

2025.5.23 みすず野

 大正、昭和の2代天皇家の食事などを担当し「天皇の料理番」と呼ばれた秋山徳蔵(1888~1974)は、暑くなると食欲が衰えるが、そんなときに、一番いいのはにぎり飯だと書いた。「ただ御飯を握ったばかりなのに、別物のようにうまくなるから不思議だ」(『味の散歩』中公文庫)と◆関東地方の田舎では、平たく握ったものの両面にしょう油をつけ、ほうろくで焼くとある。ほうろくとは「素焼きの、ふちのある厚い皿形の調理用具」(『三省堂国語辞典』)。今、どれだけの家庭にあるだろう◆作家・吉川英治(1892~1962)宅を訪ねると、締め切りが迫る原稿を執筆中。白いにぎり飯と漬物が置いてある。原稿を書く時の昼飯だという。この取り合わせは奇異な感じがしたが「いかにもその人らしく思われてきて、なにか、しみじみしたものを覚えるのである」とつづる。親本は昭和31(1956)年に発刊された◆鹿児島には、高菜の漬物を使ったり、かつお節を入れたりした南国らしい味のおにぎりがあると紹介しているが、現在はコンビニの定番商品。ツナマヨや牛肉などのおにぎりの感想を聞いてみたい。