連載・特集

2023.12.27 みすず野

 ぼんやりテレビを見ていたら、短時間でできる本格おせち料理の作り方を説明していて、思わず見入った。家庭で作るおせちが最もおいしいと説く料理人が、元日においしく食べられる方法を実演していた◆おせちの中ではごまめがうまい。カタクチイワシの幼魚を洗って乾燥させてからいり、飴煮にしていると知る。「田作り」という呼び方になじみがある。「五萬米」の字をあて、武家では小さいながら尾頭がついていることから「小殿原」と呼んだと歳時記にある◆俳人で文化功労者の宇多喜代子さんは「米粒がたくさんできるようにとの願望を、『五萬米』や『田作り』という字に託して正月の祝膳に置いた古人の切実な心情は、今では理解されぬ」ようになったと語る。それでも「クルミやアーモンドのスライスをからめた飴煮は、若い方にも好まれている」とか(『旬の菜時記』朝日新書)◆おせちの要は「三つ肴」といわれる黒豆、数の子、田作りだともいう。田作りには「農事に支障がなきようにという願望がこもっています」(『厨に暮らす』NHK出版)と教えてくれる。古人の思いに沿うようにそろえる、それでいいのだと。