連載・特集

2023.7.20 みすず野

 クリーム地に赤の国鉄色が懐かしい。キハ58系は主役が電車になる前のディーゼル気動車。中央東線では急行アルプスが走った。昭和36(1961)年投入というから、山崎貴監督の映画「ALWAYS三丁目の夕日'64」の時代である。ちなみに特急あずさのデビューは昭和41年◆今はもう見られない列車が信州の山並みを背景に、鉄橋を渡る。松本市美術館の企画展会場で制作の手間と山崎さんのこだわりに触れた。フィールドワークとコンピューター技術が生み出す映像は、鉄道ファンの心をもわしづかみにした◆例えば初めて足を踏み入れた薄暗い境内で、こけむした石のほこらに異界の気配を感じる。どこか島にツリーハウスを建ててみたいと思う。私たちは常に現実だけを見て生きているわけではないので、過去や未来への空想の世界が目の前に繰り広げられるとき、心を動かされるのだろう◆子供たちがのび太の部屋をのぞき込み、瞳を輝かせる。お父さんは戦艦の模型やゴジラの絵コンテの前から動かない。高齢の女性が展示品の看板を指さして「あっ、鈴木オート」と言った。異才の人は物作りの匠に囲まれているとも知る。