連載・特集

2023.3.7 みすず野

 小学生のころ読んだ偉人(勝海舟だったと思う)の伝記に―外国語(勝なら蘭語だろう)の辞書が高価で買えず、借りて書き写す場面があった。今ならコピー機があるのに―と思った◆『胡桃澤勘内集』を蔵書検索すると、県内は四つの図書館にしかない。戦後間もなく編まれた希少な歌集とあって、いずれも閲覧できるのは館内のみ。仕方がない。全首を書き写す覚悟で取りかかったが―だんだんと腕が疲れてきて―目に付いた歌を拾い出すので精いっぱい。それでも半日かかった。勝海舟かよ、と言いながら◆昨日付「文学散歩」を読んだ方は、後段はただ歌を並べただけだと思われたかもしれない。写した歌を一首でも多く載せ、勘内の思いを伝えたい気持ちが働いた。便利になる一方の世の中だけれど―例えば「昔の人はこの長距離をよく歩いたものだ」と車で走るよりも、実際に歩いてみて感じ取れることもあるのではなかろうか◆豊科の図書館で日曜の午後―ついたての向こうから本のページを盛んにめくり、筆記具を使う音がした。ちらっと目をやれば中学生あたりに見える。きょうは高校入試。頑張れ、現代の安房守たちよ。