連載・特集

2024.8.5 みすず野

 草に混じって大きな葉を広げているシソは、庭に勝手に生えてくる。「毎年こぼれ種であちらこちらと足の踏み場もないほど芽を出す」と料理研究家の辰巳浜子さん(1904~1977)は『料理歳時記』(中公文庫)に書いている◆シソ(青ジソ)を大葉と呼ぶことを、アルバイトをしていた青果店で知った。市場から仕入れた大葉を10枚ずつ輪ゴムで束ねて売り場に並べた。駅前に近い立地の店で、周囲の飲食店が大きな得意先。店主に荒っぽい言葉遣いで話すそうした店の威勢のいい兄さんたちは、皆案外やさしかった◆できれば断りたかったのが店主の娘の保育園へのお迎え。駅前の通りを、園児の手を引いて歩くのは格好ばかり気にする年頃の学生にとって、かなり恥ずかしいことだった。それでも、迎えに行くのをこの子が楽しみにしているといわれると、ちょっぴりうれしかった◆アルバイトは社会にかかわる貴重な機会だと後からわかる。夏休みに汗を流して働いている学生もいるだろう。絵に描いたような貧乏学生だったが、今は経済的に恵まれない学生が増えていると聞く。体は若い。暑さに負けず頑張れと励ましたい。