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松本サリン事件の救助活動公文書が残らず 広域消防局が保存期間後に廃棄か

出動報告書(手前)と報告書をつづったファイル

 松本サリン事件当夜、多くの職員が被害者の救助活動に当たった松本広域消防局に、活動の詳細を記した公文書が残っていないことが市民タイムスの取材で分かった。活動後に作成された公文書の出動報告書は規定の保存期間を経て廃棄されたとみられ、非公式の資料が残るのみ。専門家は、社会に大きな影響を及ぼした事件の教訓を後世に受け継ぐ重要性を指摘している。

 消防局によると、局内に残されている事件関係の資料は、A4サイズのクリアポケットファイル(40ポケット)1冊のみ。現場の地図や写真などとともに、当日の出動態勢や傷病者数、搬送先、救助活動の時系列を記した資料などがとじられている。職員が個人的にまとめ、歴代の警防課長が取材対応のために保存してきた非公式資料で、作成者や作成日、出典は不明だ。
 消防局は消火や救助などの活動を行った際、その都度出動報告書を作成している。報告書には活動の日時、場所、現場の状況、出動した人員・車両の数、使用資機材などを記載し、事件があった平成6年当時も作成していた。出動報告書の保存期間は、11年に定めた松本広域連合の規定などで作成後10年としていて、サリン事件の出動報告書も期間後に廃棄されたとみられる。
 同局総務課の小島康幸課長(58)は「報告書が残っていないのは残念。今後発生する重要事件では、期間を定めず保存したい」とする。一方「30年で当事者の記憶も薄れている」とし、消防局として改めて当時の記録をまとめ直すことは「考えていない」と述べた。
 公文書管理に詳しい信州大学大学史資料センターの福島正樹特任教授は、報告書の廃棄について「規定通りの扱いで、法的な責任は問えない」としつつ、「残されたファイルをまとめた人から編さんの経緯を聞くことで、資料の確度を上げることができる」と指摘し、今ある資料を生かして後世に受け継ぐ重要性を訴える。当時を知る消防局職員はすでに定年を迎えたか、定年間近となっている。記憶を記録に残す意義は大きくなっている。