連載・特集

2024.4.12 みすず野

 毎年恒例の「桜風景」をはじめ紙面には桜色が広がる。桜はこの国の人にとって特別な花だ。開花予想や桜前線の北上の様子がニュースになる。花が開けば、木の下で花見の宴の始まりだ◆フランス文学者の奥本大三郎さんは、かつてフランスにしばらく暮らして、何となく変に思ったのは人々が花見、花見と騒がないこと。桜はある。畑のように桜が植えてある。それはサクランボを取るための実桜だった◆「春を待ち焦がれる気持は日本人よりはるかに強いように思われるけれど、花見はしない、というか、結局花見の文化が無いのである」(『マルセイユの海鞘』中央公論新社)という。東京・上野の不忍池近くのマンションに引っ越して、つくづくよかったと思うのはこの頃だそうだ。桜が散ると「花びらが池の一方に吹き寄せられ、水面を覆って桜色の幔幕を引いたようになる」のだと◆安曇野市が発行している『さくら サクラ 桜』は226項目で市内の桜を紹介している。写真、地図付きで、大変な労作だ。本の存在を知らないでいて書店で見つけた。桜の切り株や皮細工なども載る。ページを繰ると、机上で花見を楽しめる。