連載・特集

2024.4.1 みすず野

 随筆家の江國滋さんが、夜中に酔っ払って帰宅すると、机の上にエアメールの封筒が載っていた。女友達とアフリカ旅行中の長女からだった。「アフリカはいいところです」などとあり、不意に改まり「私は結婚します。相手はこちらの青年で―」と続き、「三月十八日、アフリカにて」と終わる◆「頭の中がからっぽになって、酔いが、すーッと醒めた」。うろたえながら、追伸の1行が目にとまる。「この手紙が十四日後に届くことを念じつつ」。14日後は4月1日、エープリルフールだった(『きょうという日は』美術年鑑社)。13年後長女は結婚、今度はエープリルフールではなかった◆エープリルフールは、辞書や歳時記によると、ヨーロッパで始まった風習でうそをついても許されるとある。大正年間に伝わったと。子どものころは、友達にどんなうその話をしようかと考えたことが懐かしい◆国会の政治倫理審査会で、自民党の議員が繰り返した「知らない」「わからない」。テレビを見ながら、「これはうそだな」とつぶやいたのが大方のような。センセイ方のカレンダーには、エープリルフールが何日もあるのかもしれない。

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