連載・特集

2024.2.21 みすず野

 昨日の朝、一歩外に出ると、突然春がやってきたような暖かさで驚いた。夜の間に降った雨のしずくが庭木に残っていて、それに当たる日の光がまぶしく、一気に季節が変わったように感じて足元が弾んだ◆春が近くなると、動物行動学者の日高敏隆さん(1930~2009)が著した『春の数え方』(新潮文庫)を毎年手に取る。滋賀県立大学長を務めていた平成7(1995)年から数年間に書かれたエッセーを集める◆子どものころの春を待つ思いや、春になると毎年ほぼ同じ時期に虫のような動物が姿を現す仕組み、一群となって咲いている植物の花の高さが一定になっている理由など、春に関連した自然界の不思議を平易に語る◆東大の学生だった昭和20年代後半、指導教授の計らいで、蚕の手術を学ぶために胸をときめかせて松本へ赴く。研究所は「今はもうなくなってしまった路面電車の松本電鉄が、本通りから左へ曲って浅間温泉へと向かうその曲がり角に建っていた。木造二階建ての、なかなかモダンな趣のあるのが本館だった」(「夏のコオロギ」)とある。23、24歳当時。きっと人生の春が真っ盛りのころの日々だ。

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