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声楽家・狭間壮さん 傘寿のコンサート開催へ

傘寿を迎え、10年ぶりの独唱会を自主企画した狭間さん

 松本市両島の声楽家・狭間壮さん(80)が7月7日、音楽活動60年と傘寿を記念した独唱会を市音楽文化ホールで開く。半世紀前の交通事故で体の自由を失い、一度は絶望の淵に立たされたが、歌を通して再び命に向き合い、命を守り育むための平和を祈りながら歌声を響かせてきた。変化する声帯や体力の衰えを受け入れつつ「年を重ねたからこそ深まる世界」を胸に、一人一人の心に届く歌を奏でる。

 新型コロナウイルス禍や体調の変化といった事情もあり独唱会を自主企画するのは10年ぶり。60年間に出合った数百曲から「どうしても歌わなければいけない作品」を中心に15曲をえりすぐった。特に平和や反戦を願うプログラムを充実させ、ライフワークとして歌い続けてきた「一本の鉛筆」や「さとうきび畑」、中国民謡「海はふるさと」などを予定する。
 戦中の昭和18(1943)年に台湾で生まれ、引き揚げ後に音楽教育を受けた。中央大法学部への進学後も声楽に打ち込み19歳で渋谷の歌声喫茶カチューシャの歌手に。21歳でNHKのオーディションに合格し演奏活動を本格化した。テノール歌手としてオペラのアリアやカンツォーネを幅広く歌ったという。
 都内から松本に移住し、33歳の時だった。交通事故で胸から下の感覚と体の自由を失い「絶望した」。自死を考えたこともあったという。しかしリハビリセンターから見えた果樹園にリンゴと命を詠んだ立原道造の詩を幾度も重ねる中で「命の重みを見つめ、自分には歌しかないと思うようになった」。かつてのイタリア音楽を歌うには呼吸や発声に制約が生じたが、新たに日本歌曲や「命のいとおしさ」に目が向き「生きとし生けるものの命のために平和を歌い続けよう」と誓った。
 半生を「波瀾万丈だった」と振り返りつつ「人生に歌があって良かった。歌が与えてくれた多くの出会いに感謝し、今の自分を歌いたい」と話している。
 午後6時45分開演で3000円。問い合わせは傘寿の会(電話090・4461・4591)へ。