松本の87歳・武者賢次朗さんが朗読会開始 にじむ人生の歳月

松本市沢村2の武者賢次朗さん(87)が"終活"の一環で朗読会を自主企画し、16日に同市城山のギャラリー&カフェ憩の森で初回を開いた。71歳で出合い、人生に欠かせない存在になったという朗読に悔いなく向き合いたいと一念発起。会員が自分一人の主催団体「憩の森朗読日より」を立ち上げ、年2回のペースで催していくことにした。「自分にとっての終活は新たに活動する"就活"。納得のいく時間を過ごしたい」と話している。
憩の森朗読会と銘打ち、約50人が訪れた。初回は朗読仲間の市川さつきさん=安曇野市=と短編を一編ずつ披露。明かりを落とし、朗読が始まると、客席が静まり返った。
武者さんは『月まで3キロ』(伊与原新)を1時間かけて読み上げた。希望を失い、樹海を目指した男が、乗り越えられない悲しみを味わったタクシー運転手と月を見上げる物語。行間にまで感情を込めながら静かに、穏やかに読み終えると、訪れた市内の70代の女性は「目の前に情景が広がり引き込まれた」と余韻に浸っていた。
武者さんが朗読に出合ったのは平成19(2007)年、所属していた合唱団の演奏会だった。曲間の朗読を任され「静寂の中、自分の声がピーンと響いていく経験が何とも心地よかった」。翌年以降、朗読講座や朗読会に通い、コンクールで受賞するなど腕を磨いた。「朗読には読み手が重ねた人生の歳月も味わいとなってにじみ出る」と魅力を語る。
近年は松川村の朗読会「葦」に所属するが「いつまで車を運転して通えるか分からない。とは言えまだ読み残した作品がある」と自宅に近い会場で朗読会を開くことにした。次回の予定は12月1日。「体力が少しずつ落ちていく中、毎日が人生のピーク。健康を維持しながら聞く人の心に染み入る朗読を続けていきたい」と話している。