連載・特集

2023.6.13 みすず野

 岩波書店を興す岩波茂雄は、漱石の家で〈はばかり〉に落っこちた。人に見られ〈ごちそうする〉と口止めしたが、なかなかおごらないので知れ渡る。〈先生の亡くなられた晩〉というのが、おかしさのなかに悲しみを誘う(内田百閒『追懐の筆』中公文庫)◆くみ取り式とか落っこちるとか、生まれた時から水洗の洋式トイレを使う子供たちには説明が要るかもしれない。松本の市立小中学校で洋式化が8割と記事にあった。まだ和式が2割とも読める。利用しやすい環境が1年でも早く整うといい◆かつては金肥と呼ばれ、買ってでも欲しい肥料だった。家賃から下肥代を差し引いたり、他家で用を足すのがもったいなくて自宅まで我慢したり―といった話を読んだ覚えがある。都市の人口増や化学肥料の普及で逆にお金を払って処理してもらうようになり、循環システムは崩れた◆未来の"金肥"となるか。県と南安曇農業高校が下水の汚泥を水田の肥料にする試みを始めた。肥料代の高騰で学校田の作付け面積を減らしたと聞いていただけに、数年かかるという成果が待たれる。後年の岩波書店の隆盛にもあやかり、運が付くように。