連載・特集

2023.8.24 みすず野

 NHK大河ドラマ史上これほど不気味な秀吉が、かつていただろうか。ヘラヘラしていたかと思えば真顔になる。少し怖い。ムロツヨシさんが天下人のくせ者ぶりを好演している◆さて、松重豊さん演じる「わが殿様」の動向を追ってきた郷土の視聴者にとって、いよいよ最大のヤマ場がやってくる。前回の放映では小牧・長久手の戦勝に沸く徳川家臣団にあって独り「秀吉には勝てません」と言う姿が描かれた。家康の重臣が、敵対する秀吉の元へ。出奔の理由は史家の間でも定説をみていないという◆よく分からないところが小説家の想像をかき立てる。図書館で何冊か借りてきた。徳川家のために自ら捨て石となったか。秀吉に調略された裏切り者か―ドラマでの描かれ方も楽しみだ。信州松本で新たな城と城下町建設のつち音が響く。父子2代で築き上げた天守は430年の星霜を経た今日も、街を見守っている◆安曇野市明科七貴の山崎人功さんが書いた時代小説『天守の声』を読んでいたら、今回の大河のタイトルを〝先取り〟したかのような一行があった。四面楚歌の家中で、暗殺の手が忍び寄る。さあ〈どうする?石川数正〉