連載・特集

2023.9.8 みすず野

 米国の野球好きは3月を、ドリーマーズ・マンス(夢見る月)と言うそうだ。開幕の前か直後だから、弱いチームのファンも「ひょっとしたら今季は優勝するかも」と夢を描くことができる(『井上ひさしベスト・エッセイ』(ちくま文庫)◆その気持ち、よく分かる。18年このかた毎年そう思い続けてきた。今の高校2年生は前回優勝時まだ生まれていない。それ以前も21年、18年...1年おいて歓喜を味わったと思ったら...そんなチームがプロ野球のセ・リーグにある。長年のファンにとって優勝が人生の節目みたいになっている◆国鉄(現・ヤクルト)スワローズファンの井上さんは〈婚約期間〉に例える。自分たちこそ世界で一番幸せな夫婦になれると信じ込む至福の時。〝結婚〟後も相手(選手やチーム)が―少しくらい不満があろうと―大好きで、現実(戦績)とうまく折り合っていかれたらいい◆もちろん、まだ安心できない。これまでもマジック点灯後、幾度がっかりさせられてきたか。最大13ゲーム差をひっくり返されることもあった。何が起きるか最後の最後まで分からない―は、もはや人生訓だ。夢見る月は続いている。