連載・特集

2025.5.17 みすず野

 明治から昭和にかけ活躍した吉江孤雁=本名・喬松=の塩尻市長畝の生家が解体されたと、過日の小紙に載った。10年ほど前、当時の吉江家当主・嘉教さん(故人)を訪ねたことがある。広い敷地を歩きながら「あれが孤雁の生家」と教えてもらった記憶がよみがえった◆早稲田大学教授でフランス文学研究家、文芸評論家と多くの顔を持っていた孤雁。詩人や歌人でもあり、塩尻中学校に「名をとへど知る人もなく秋空に燦爛として輝きし峯」と刻まれた歌碑が立つ。子供時分に眺めていた穂高連峰を織り込んだ歌に郷土愛がにじむ◆嘉教さんを訪ねたのは、旧制中学校や大学で孤雁に学び、生涯の師と敬慕した詩人の西条八十の碑について聞くためだった。追悼の詩碑は、長畝にある孤雁の墓と向き合うように立つ。西条も参加した吉江先生追悼会は「会場の床が抜けるほど多くの人が集まった」という。孤雁がどれだけ多くの人に慕われていたか、しのばれる◆生家解体の記事で、孤雁のひ孫に当たる方が、生家跡地の利用のアイデアを求めていた。人望が厚かった孤雁である。顕彰と観光を併せて何かできないだろうか。官民一体で。