連載・特集

2023.2.27 みすず野

 山の雪形や二十四節気を「農事暦」と呼ぶが、まさにそんな趣のコラムだった。南安曇農業をはじめ高校の教壇に立ち、本紙に〈農の心象〉を連載された安曇野市堀金烏川の橋渡良知さんである。過日94歳で旅立たれた◆新しく農業を始める人に向けて、まずジャガイモの植え付けを勧める。栄養豊富で貯蔵も利き、作りやすい。秋野菜のまき時は9月10日ごろまで。剪定は日光が満遍なく当たるよう―実践に裏打ちされた文から土のにおいがし、異常気象や猿害に心を痛めるさまは〈サムサノナツハオロオロアルキ〉を思わせた◆「子育て支援」を選挙の時に言わないと当選がおぼつかなくなって久しい。「農業」とはあまり聞かない。命を育む営みがなおざりにされていないか。土離れや食料自給率の低さを憂え、国の農政を〈農村生活を知らない作文〉だ―と断じた"土の声"に耳を傾けたい◆6年ほど前―橋渡さんが南農の教え子たちに囲まれ、ご満悦の場に取材でお邪魔したことがある。「先生」と呼び掛ける若輩の記者を不思議そうにしばらく凝視し、やがて、にっこりとされた。あれほど優しいまなざしの教師を他に知らない。