連載・特集

2024.10.12 みすず野

 東京の出版社で働いていたころ職場が近かったことから、かんだやぶそばののれんを何度かくぐった。老舗で、名が通っており、確かにうまかった。が、いつも思った。「松本のそばの方が絶対にうまい」。ふるさとびいきは否めないが、それを差し引いても、やはり譲れなかった◆いい値段がしたので、職場の先輩に誘われて、おごりで食べに行くのがほとんどだった。食後に毎回、松本のそばのうまさを力説した。いま思うと顔から火が出そうな失礼な話だ。お金を出してもらっているのに他のそばの方がうまいと言うのだから。それも毎回。先輩の心の広さをあらためて思う。そのころの先輩の年齢を超えた。もし同じことを言う後輩がいたら、2度と誘わない◆若造のたわ言と、意に介さなかったか。生まれも育ちも東京の先輩で、田舎者の自慢をかわいく思ってくれていたか。いまとなっては知るよしもないが、ニコニコして聞いてくれていた温顔は忘れられずにいる◆きょうから3日間、松本市の松本城公園を主会場にして、第18回信州・松本そば祭りが開かれる。県内外のそば処の逸品が楽しめる。お国自慢の味を堪能しよう。