連載・特集

2023.07.31 みすず野

 初めて御嶽山に登ったのは―携帯電話を持っていたから―たぶん20年ほど前だ。山頂でメールを打った記憶はあるが―当時の機種は文字の選択が今のスマホみたいに簡単でなかった―苦労して作成した文面が先方に届いたかどうかは覚えていない◆王滝道をたどった。まだ黒沢や開田道の存在を知らず、道路標識に導かれるまま―百名山を一つ稼ぐくらいの気持ちだったのだろう。八丁ダルミに立つ神像が「ここは信仰の山だ」と教えてくれる。最後の石段―道中で一番きつい―で内股の筋肉がピクピクッと震えた。将来、仕事で何度も登ることになるとは知るよしもない◆きのう付の紙面の写真に、八丁ダルミを剣ケ峰へ向かう登山者の姿があった。かつて入山規制範囲が徐々に狭まるのを取材した一人として、一区切りの感慨が湧く。「王滝道からも登頂が可能になったら、いつ異動になってもいい」と言っていた他紙の記者の顔が思い浮かぶ◆山開きの翌日は毎年、山道を補修しながら黒沢・王滝口からそれぞれ登った地元有志が山頂で合流し、握手を交わすのが恒例だった。木曽は一つ。いつの日か麓の皆さんの笑顔にまた会いたい。

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