連載・特集

2023.4.25 みすず野

 白ごまをまぶし、あんこの詰まった―あの大福餅はもう食べられない。同僚からの電話で訃を聞いた。かつて職場で清掃を長く担ってくれた女性である。他に差し入れのたくわん漬けや白菜の浅漬けも懐かしい◆畑をやる人は話し相手が非農家と知ると、とても喜ぶ。うれしそうな顔で「本当に何も作っていないのですか」と目を輝かせる。「ええ何も。農家の親戚もありません」―次の日からナス(白いナスもあった)やキュウリ、ミニトマトなどをどっさりと机の脇に置いていってくださった◆どの職場にも(従業員や職員の他に)出入り業者や陰で支えてくれる人がいて、おかげで製品やサービスを提供できているのだろう。口数が少ないなかにも、お孫さんの話題になると顔がほころんだ。きっと優しいおばあちゃんだったのに違いない。紙面を借りて、共に日々の新聞を作った同僚への紙碑としたい◆四苦八苦は仏教の言葉という。自分の病や老いも―欲しい物が手に入らないことや大切な人との別れも―八つともたしかに苦しいが、もう一つ。生きている限り、先に逝く人を見送り続けなければならないのも、なかなかにつらい。