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2024.4.2 みすず野

 桜前線の北上が始まっている。当地を彩るのがいつごろになるのか、その時を待つのも楽しい。近年は、日中花開いた桜を眺めるだけでなく、夜間のライトアップがあちこちで行われるようになった。花の美しさをより楽しもうという趣向だ◆春の行楽として、現在のような花見が始まったのは江戸時代からだという(『江戸 食の歳時記』松下幸子著、ちくま学芸文庫)。「初期には神社仏閣やその周辺の数少ない桜を、少人数で静かに眺める花見」だった。寛文年間(1661~73)に、一般の人々の花見が行われるようになったとある◆4段の重詰めのような豪華な花見弁当に対して、落語「長屋の花見」は、卵焼きは黄色いたくあん、かまぼこは大根の漬物。酒は番茶で、酒柱が立つというよく知られた落ちになっている◆「一年一年、齢を重ねながら見る花は決して同じものではない。子供の頃見た桜、壮年期に出会った桜、老年にさしかかってしみじみと仰ぐ桜、というように、見る側の変化によって、桜は全く違う印象を与える」と俳人・鷹羽狩行さんは説く(『俳句入学』NHK出版)。この春、目の前に広がるのはどんな桜だろう。

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