連載・特集

2024.3.26 みすず野

 朝の通勤時に、小学生の男の子が犬の散歩をさせている。ここ数日、毎日見かける。いつも楽しそうな表情で、小型犬と一緒にゆっくり歩いている。今は春休み。足取りがどことなく弾んでいるようだ◆「銭形平次の時代には乗物といってもバスも電車もなく、さうむやみとお駕籠にも乗れなかったらうから、八五郎が聞き込みをすれば(中略)神田の平次の家まで駈けてゆく」「銭形平次まで遡って考へないでも、私たち明治の人間の子供時代には、大人も子供もずゐぶんよく歩いてゐた」と、歌人の片山廣子(1878~1957)は「徒歩」という随筆に書いた(『ともしい日の記念』早川茉莉編、ちくま文庫)◆歩くことが健康にいいと、それは百万遍聞かされてわかっているが、そのための時間を取るようなことが簡単にはできない。たいしたことはしていなくても、瞬く間に日々が過ぎてしまう◆これは健康づくりではなく、散歩の延長であるということにして、用事を片付けるついでに、一昨日の休日、少し長めの距離を歩いた。目的地の寺に着くと軽く汗ばんだ。帰りは別の道を選ぶ。途中、モクレンのつぼみが膨らんでいた。