連載・特集

2023.7.30 みすず野

 きょうは土用の丑の日。ウナギ受難の日だ。外食で特別なこだわりはほとんどないが、ウナギだけは決まった2、3軒の店に行く。遠来の客を連れて行くのも、土産に持参するのも同じ店。好みの味ということだろうか◆かば焼きのうんちくなどを語るだけの知識もなければ、肥えた舌もない。ただ、ウナギをテーマにした小説を集めた『うなぎ 人情小説集』(日本ペンクラブ編、浅田次郎選、ちくま文庫)の面白さはいくらかわかると思う◆収められているのは9編の小説と、人並み外れたウナギ好きとして知られた歌人・斎藤茂吉の短歌16首。小説では岡本綺堂「鰻に呪われた男」の不気味な面白さが際立つ。吉村昭さん「闇にひらめく」は、ウナギ捕りの男の心情を描く。ラストシーンが心に残る◆選者は「鰻は格別なのである。ちょいとつまんだり、たぐったりする食い物ではない。見栄を張って高い金を払い、なおかつ意地で長い時間を待たねばならぬ。実に入魂の食い物と言えよう」と語る。「上等の鰻屋ほど手間をかけるから、遅いだの早くしろだのは禁句なのである」と。ここまで読むと、店へ行く誘惑に勝てそうもない。

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