連載・特集

2023.2.12みすず野

 「やっぱり美味しい地元のお豆腐」という広告が、先日の小紙に載った。県豆腐品評会で松本・木曽地域の6点が入賞した結果を伝えていた。受賞した豆腐店の商品が並ぶのを見て思わず「今夜は湯豆腐」とつぶやいた◆豆腐店は朝が早い。作家で東海大教授・石田千さんは「近所のとうふやさんは働きもので、朝の三時には開けているらしい」「あぶらあげは七時、厚あげは八時ができたてと覚えていて、がまぐちを持って出かける」(『箸もてば』ちくま文庫)と戦後70年目の冬の朝を書いた◆江戸中期の儒学者・荻生徂徠の逸話を描いた「徂徠豆腐」は、落語や講談、浪曲でおなじみの演目。豆腐屋の七兵衛は、貧乏長屋で暮らす徂徠に、出世払いで豆腐を差し入れしている。ところが徂徠は七兵衛が知らぬうちに長屋を出てしまい、七兵衛も徂徠を忘れてしまうが―と話が進んでいく◆「湯豆腐やいのちのはてのうすあかり」は、作家、劇作家、俳人として活躍した久保田万太郎の句の最高傑作とされる。子どものころは鍋を手に、豆腐を買いに行った。いつの間にかそんな子どもは見かけない。身近にある食べ物に変わりはないけれど。