連載・特集

2023.9.30 みすず野

 民芸研究家で、松本民芸家具会長などを務めた池田三四郎さんの著書『木の民芸 日常雑器に見る手づくりの美』(文化出版局)が手に入った。掲載した民芸品は著者の身の回りにあり、関係のあるものを主に、高価なものは避けて「美しいと思うものから集めてみた」という◆1点ずつモノクロ写真を載せ、著者が文章を記している。「今は唯一の松本において発見された円空像として認められている」という、松本市神林のお堂に300年置かれていた「松本の円空仏」から始まる◆市内の有名な飲食店にぶら下がっている「自在掛け」をめぐる物語が語られる。何度も行ったはずだが、60センチくらいあるという自在掛けを見た記憶がない。近々確かめに行かなくては。飲みに出る口実ができた◆「猫の木彫」は、高さ19センチほど。耳が欠け、目もはっきりわからないが、口は明らかに猫のそれで、尾が後から前に巻いている。「さんざん手ずれて、いつの時代のものかわからないが、とにかく古格があり、よほどの猫好きの人が長く愛用したことがわかる」との感想を寄せている。何度も文字をたどりながら、木彫と所有者に思いをはせる。