連載・特集

2023.10.23 みすず野

 民家の垣根に用いられているイチイは、市町村の木に指定されている例が多いようだ。中信でも塩尻市と山形村が指定している。近隣では岡谷市がそうだし、松本市の姉妹都市で、他県ながら隣接する岐阜県高山市もそうだ◆この季節には赤い小さな実を付ける。子どものころはこの実を喜んで食べたが、近年、そんなことをしている姿を見かけることはなくなった◆童話『星の牧場』などを著した児童文学者で、帝塚山学院大の学長を務めた庄野英二は、木曽郡開田村(現在の木曽町)に山荘を持っていた。夏はこの山荘を訪れ、一人で過ごした。『スケッチブック 開田村花譜』(編集工房ノア)は、昭和62(1987)年にこの山荘で書いた小文や短詩を収める◆「私はこの夏も、御嶽山麓の小屋で一人暮らしをし、毎日、末川沿いの道を散歩した。御岳の中腹迄登っていけば、高山植物や、亜高山植物の花も咲いているのだが、私の散歩道の花だけをスケッチした」と記した。その中に、サワヒヨドリの花のスケッチを添えて「イチイの実」というわずか4行の短い詩がある。「枝に灯った/赤い豆電球/村の垣根の/クリスマス。」

連載・特集

もっと見る