連載・特集

2024.3.28 みすず野

 年度替わりは、新たな出会いの前に、別れの時期でもある。定年退職や契約期限切れなどで、今週で職場を去る人もいるだろう。通い慣れた場所へ向かうのも、きょう、あすだけだと。去来するのはどんな思いだろうか◆その人の存在に気付くのは、決まって不在になってからである。そこの机に向かっていたあの人。同じ社有車を毎日運転していたあの人。出社すると明るくあいさつしてくれたあの人。退社して二度とともに働くことはない。そうなってから、あの人がいたのだと、初めてその存在を意識する◆親を考えればわかりやすい。あのことは父に聞けばわかる、これは母が詳しく知っていると、ことあるごとに思うのだが、二人ともとっくに亡くなっている。そのとき、改めてなんともいえない喪失感を味わうことになる。何度も◆年度が替わり、新しい人がやってくる。ずっとそこにいたように、机に座り、車を運転し、あいさつをする。そのときあの感覚に見舞われる。人だけではない。大切だと気付くのは決まって失ってから。「戦争反対」は当たり前のこと。それが言えなくならないように。「戦闘機輸出反対」だってそうだ。