連載・特集

2024.3.14 みすず野

 本のページの隅を折り曲げてしおり代わりにする、その折った部分を犬の耳という。英語でも「ドッグイア」と呼ぶ。国は違ってもあの三角形を同じように犬の耳に見立てるのが面白い。世界のあちこちで同じようなことをしているのだろう◆翻訳家の青山南さんは、辞書を引いて、ページの隅が自然に折れた状態も、ドッグイアという言葉を使うと知る。「翻訳業のぼくは困った」。犬の耳という言葉にぶつかったとき、それがわざと折ったのか、自然に折れたのか「いずれかの判断はむずかしいぞ」(『本は眺めたり触ったりが楽しい』ちくま文庫)と◆通販で古本を買うと、この折り跡を見つけることがある。1カ所や2カ所ならどうということもないが、数が増えると、その部分だけ本が膨らんでしまう。これを図書館の本でやってはいけない。返却するときに戻しても、簡単に折り跡は消えない◆本の隅を折りたくなる言葉は、それ自体が気に入ったり、そのときの気分に応えていたりという理由からだと青山さんはいう。それがたくさんあるといい本だなあと思うと。小紙最終面「わが家のペット」に犬が載る度に耳を見てしまいそうだ。