連載・特集

2024.3.13 みすず野

 かばん持ち、というと別の意味になってしまうけれど、かばんをたくさん持っている人のことをこう呼んでもいいだろう。「金持ちと云う言葉があるくらいだから」と作家の神吉拓郎さんは『たたずまいの研究』(中公文庫)で書く◆友人にかばんのための部屋を「ひとつ持っているのではなかろうか」と思うほどの男がいるという。行く先と目的によってかばんを替えるとは「随分うらやましい道楽」だと人柄を描く◆「生活上のもろもろの瑣事からまず入って行くのは、私が小説を書く場合の流儀でもある」といい、誰でも知っているささいなものや習慣は「人について実によく語ってくれるから」だと。取材もそうで主要なテーマについて話を聞き終えた後、本筋とは別の、例えば食べ物の好き嫌いなどを聞き出せれば、素顔を伝えるひとつの文章が書ける◆昨日付の小紙には、松本市長選挙に立候補している5氏の横顔が、政策を訴える顔とは異なる柔らかな表情で紹介されていた。公約はもちろんだが、こうした記事も一票を行使するのに役立ててもらえればと思う。17日の投票日に都合が悪い場合は、期日前投票を受け付けている。