連載・特集

2024.4.23 みすず野

 「石器時代の穴居人が先の尖った石で壁に絵を描いていたとき以来、人類は書くためのよりよい道具を発明してきた。きまって困惑させられるのは、道具はいつも進歩しているのに、人びとが書くものはいっこうによくならないという事実である(『ありがとう、友よ』アンディ・ルーニー著、北澤和彦訳、晶文社)◆著者はアメリカの人気コラムニスト。同書は35年程前に刊行された。タイプライターは急速に過去のものになりつつあるといい、あらゆる種類の事務職は、ワード・プロセッサーを使っていると書いた◆「人びとは試合で発揮できる腕よりいいスポーツ道具をきまって買い求める。先週、わたしは高価でみごとなテニス・ラケットに投資した」にもかかわらず、ワープロを使っても文章がうまくならないように、テニスもちっとも上達しないと結ぶ◆石器時代から続くという〝事実〟とやらを教えられても、面白がってただ読んでいるわけにはいかない。ワープロはパソコンに替わったが、書くものがよくならないという問題は、解決しつつあるのだろうか。道具に負けない腕を持ちたいと、誰よりも願ってはいるのだけれど。

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