連載・特集

2024.4.19 みすず野

 言語学者の千野栄一さんは、チェコのプラハでビールを飲んでいて中年男性から声をかけられる。チェコ語の勉強に日本から来ていると話すと、方言を知らないと生きた勉強にならないと言われ、私の出身を当てたら君のビール代は僕が持つという◆1時間近く話したが、会話に全くすきがなく、代金は自分で支払う。男は自分の支払いをしてからマスターにトイレの場所を聞き「まっすぐ?」と確かめた◆戻ってきた男が戸口へ向かう瞬間、千野さんは「あなたはトゥルトノフの出身でしょう」と話す。男は「どうしてそれを」とうろたえたが、千野さんは笑って店を出る。男はゲームが終わったと安心して油断をした。「まっすぐ?」と聞き返した一語にお国なまりが出た(『プラハの古本屋』大修館書店)◆映画「大脱走」では、脱走してフランス人を装っていた捕虜がバスに乗ろうとして、フランス語で会話していたドイツ軍の将校に英語で「気をつけて」と言われ、英語で「ありがとう」と答え捕まってしまう。生きた言葉を使わず話していて、ほっとした瞬間に油断する。国会の質問でも、この手を使ってみるのはどうでしょうか。