2025.7.6 みすず野
2025/07/06
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『万葉集』で、鹿を詠んだ歌は60首ある。奈良県立万葉文化館の企画・研究係長の井上さやかさんの論文による。決して少なくない数で、古くから人間とつきあいのあったことがうかがえる◆そんな親しみのある鹿だが、めでてばかりもいられない事態が、過日の小紙に載っていた。松本市中山の水田で稲の苗が食べられる被害が相次ぎ、農家や住民を悩ませているという。水田に大きな穴が空いたように苗がない、記事の写真を見て「これはひどい」と思った。時は、米の品薄や高騰が問題になっている折である◆10年余り前になる。筆者の長男が開成中学校の野球部に所属していて、被害のあった水田にほど近い同校第2グラウンドに行くと「バンビが毎朝ダンスをしている」と、おどけていた。その話を思い出すと、鹿は当時もう、その一帯にいたと分かる。どうして今、水田の稲を食べ始めたのか◆森や高原で鹿に樹皮が食害に遭い、防護柵の設置といった対策が採られるようになって久しい。水稲を守るのに同様の対策でいいのか、他の対策が求められるのか、早急な検証が必要だろう。局所的な問題とは思えず、知恵を絞りたい。