塩井乃湯 趣を守り100年 今の建物で大正15年から 松本の銭湯文化伝える
2026/01/01
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松本市大手3の銭湯・塩井乃湯は今年、現在の建物で営業を始めて100年となる。大正15(1926)年に完成した建物を手入れしながら守り、松本の街の銭湯文化を伝える貴重な存在となっている。
国宝松本城に近い土井尻町に立つ。木造2階建てで、洋風の外観や、オランダ製と伝わるエンボス(浮き出し加工)装飾の天井が、大正ロマンを感じさせる。木製の靴箱、貫目表示の体重計など、古い道具が現役で使われ、時間が止まったかのような趣が漂う。市の近代遺産に登録されている。
敷地内で湧き出る鉱泉は塩類を豊富に含み「長生きの湯」として親しまれてきた。昭和30年代までは、広い脱衣場の床全面が脱衣籠で埋まるにぎわいだったという。農閑期には農家の女性が団体で疲れを癒やす姿もあった。現在は1日30~40人が利用し、若者や外国人観光客も増えている。
4代目経営者の田中洋子さん(74)は平成9(1997)年、曽祖父が始めた家業を継いだ。耐震化や天井の塗り直し、設備の更新と維持には費用と手間がかかるが、建て替えを検討したことは代々「一度もない」という。
今年は明治34(1901)年の創業から数えても125年の節目となる。物価高騰の中で「ぎりぎりの経営」が続くが「地域の皆さんに助けられ、支えられて今がある。ご期待に応えていかなくては」と思いを語る。「お湯もいいし、洋子さんの持っている雰囲気が好き」。二十年来の常連に褒められ、優しい笑顔で照れた。



