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2025年

信州の美術振興に力尽くした石井柏亭 松本市美術館で11日から特別展

2025/10/04
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 中央画壇で活躍し、太平洋戦争中の疎開を機に松本を拠点として信州の美術振興にも多大な功績を残した画家・石井柏亭(1882~1958)の特別展が11日~12月7日、松本市美術館で開かれる。地元では昭和44(1969)年以来の大規模展で、各地の美術館と個人の協力を得て地元初展示の作品や終戦から1年の信州画壇について記した直筆原稿なども紹介する。
 柏亭は日本画家・石井鼎湖の長男・満吉として生まれ、幼少期より父に日本画の指導を受けた。16歳で洋画家・浅井忠に師事し画業を本格化、日本の近代美術の新たな潮流を生む一人となった。昭和20年の東京大空襲で自宅とアトリエを失い、浅間温泉へ疎開後は文化人や若い画家との交流、美術団体結成などを通して地元でも多くの人に慕われたという。
 歌人、評論家、雑誌創刊など幅広い仕事をこなし、外遊を重ねる中で精力的に描き、生涯に5000~6000点の作品を手掛けたとされる。特別展では初期から晩年までの作品をそろえ、松本の風景や市民らが題材の絵画も充実。柏亭を中心に設立された中信美術会の集まりを描いた作品、終戦間際の昭和20年8月11~15日に浅間温泉で柏亭らが開き、後の全信州美術展覧会、県展の端緒となる「在信有志油絵展覧会」の出品作も並ぶ。
 特別展に向けた調査で見つかった、新聞社の地元支局宛ての封筒に入った「終戦後一年の信州」と題する原稿も展示する。当時の県内美術界の盛んな動きに触れ、大きな戦災を免れた信州は「日本有数の地方的文化中心とならうとして居る」とし、自分が腰を据えて美術の大都市偏在の弊に一石を投じる思いを述べている。松本については「日本アルプスの関門にあたる観光都市」と評し、戦時中に迷彩が施された家屋の白壁の美しさを取り戻したい旨を記す。
 特別展は、疎開が松本に拠点を構えるきっかけとなったことから戦後80年の節目に企画された。担当学芸員の中澤聡さんは「美術館所蔵作家の中でも特に重要な一人。地方の美術へのまなざし、地元の文化芸術振興への尽力を知る機会になれば」と話している。

終戦間際の油絵展覧会に柏亭が出品した「松本城」(1945年、個人蔵)