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2025年

松本の食肉処理施設、移転断念 JAの決定に畜産農家は負担増懸念

2025/07/26
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 松本市島内の食肉処理施設の移転をめぐり、JA県グループの神農佳人会長は25日、県庁で阿部守一知事と懇談し、朝日村を候補地としていた移転新設を断念することを伝えた。他の候補地を見つけるのは難しく、移転新設自体をいったんは断念し、新たな県産食肉の流通体制の構築を検討する。島内の施設は、松本市などと協議して閉鎖時期や土地の返還時期などを決める。

 神農会長は資材価格の高騰で建設費が大幅に増えたことや、朝日村の周辺住民の理解が得られなかったことなどを説明し「新ごみ処理施設建設のスケジュールを考慮すると時間的猶予がない。苦渋の決断」と述べた。
 神農会長は「食肉処理業務の空白期間は絶対に生じさせない」とし、松本の食肉処理施設の移転・新設によらない新たな流通体制として▽北信の食肉センターや近隣県の施設による食肉処理▽佐久地域の施設での食肉のカット処理―を検討するとした。
 阿部知事は理解を示し、畜産振興に力を合わせて取り組むことを約束した。
 島内の食肉処理施設は、松本市の市有地に立地している。近くのごみ焼却施設・松本クリーンセンターの新施設の建設想定区域に食肉処理施設が含まれているため、市は土地の早期返還を求め、JAグループや県が移転先を探していた。

朝日村への移転を断念した県食肉公社の関連施設(松本市島内)

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 JA全農長野が示した子会社・県食肉公社(松本市島内)の「移転断念」の決定に、中信地域の畜産農家や、移転先の最有力候補となっていた朝日村からは戸惑いの声が聞かれた。一方、現施設の敷地を所有する松本市はJAや県の判断を待って対応を検討する考え。同敷地に新たなごみ処理施設の移転を計画している松塩地区広域施設組合は「新施設整備に向けた大きな節目」と決定を前向きに捉えた。
 「長野県の食がなくなってしまう。なぜこの期に及んで…」。「安曇野放牧豚」のブランドで豚肉の生産・直売をする藤原畜産(安曇野市明科中川手)の藤原喜代子さん(64)は突然の決定に憤った。代替施設が新設されなければ県外の施設を頼らざるを得なくなり、家畜や精肉の輸送費は農家負担となる。大幅なコスト増は避けられず「生産者はやっていけない。多くが廃業を迫られる」と先行きに懸念を示した。現施設の土地を所有する松本市にも「『出て行け』と言うだけでは筋が通らない。段取りをつけるべきだった」と苦言を呈した。
 朝日村の小林弘幸村長は「県内の食や畜産業を守る意義があり、全面的に協力する考えだった。残念だ」と表情を曇らせた。村は新設の工業団地内に施設を誘致する計画だった。「仕切り直さなければならない」と肩を落とした。
 24日の公社の取締役会に出席し「移転断念」の決定を見届けた松本市の長谷川雅倫産業振興部長は公社の敷地について「引き続き令和8年度末の返還を求める」との考えを示した。一方、「JA側から返還期限再延長の要請がある」と明らかにし「協議を続け、(土地返還の)判断をしたい」と述べた。
 松塩地区広域施設組合の牧羽文武施設1課長は25日午後の市民タイムスの取材に「現時点でJA側からの連絡はない」とした上で、公社敷地について「今後更地になり、新たなごみ処理施設を整備することになる」との認識を示した。