シカによる水稲食害、松本市中山で深刻 広域的な対策急務に
松本市中山の水田で今季、植えたばかりの稲の苗がシカに食べられる被害が相次ぎ、農家や住民を悩ませている。近くには獣害防護柵が設置されているが、シカが柵のない場所から侵入している可能性があり、広域的な対策を求める声も上がっている。

被害があったのは開成中学校(神田2)南側を流れる和泉川近くの水田で、少なくとも5枚(計約1.3ヘクタール)で苗の穂先がなくなっていたり、ほ場内の一帯にわたり苗がなくなっていたりした。水田を管理している農事組合法人「縄文の丘中山そば振興会」の百瀬文仁代表理事(70)によると、5月10日の田植え直後から被害があった。稲の苗が食べられるのは初めてで、百瀬さんは「このままでは米が収穫できるか分からない」と肩を落とす。
中山地区では15年ほど前、美ケ原や鉢伏山の麓に当たる北東方面からの動物の侵入を防ごうと、「防護柵設置委員会」を結成。平成21(2009)年には地区住民延べ1800人が作業に参加し、地区北端の生妻池から南端の牛伏川まで約13キロの区間に柵を設置した。
ただ、近年は柵がない南側の中山霊園方面からシカが侵入しているとみられる。同地区有害鳥獣対策協議会の会長で、狩猟免許を持つ仙石省治さん(75)らによると、約3年前から10頭ほどの群れで中山霊園方面と生妻池方面を行き来するニホンジカを複数回確認した。同協議会では昨年10月末、中山霊園の麓に当たる県道松本塩尻線下和泉交差点から市立考古博物館近くまでの約2キロの区間に、30基ほどのくくりわなを仕掛けた。するとわずか1カ月でニホンジカ15頭を捕獲した。同地区町会連合会の小林弘也会長(79)は「牛伏川を下って地区内に入るシカもいる」として広域的な対策を訴える。
市農政課は、柵管理者の高齢化や松枯れによる損壊などの課題があるとし、「国交付金を活用するなど対策を検討する」と話している。