内田樹さん 「届く言葉」について語る 信州しおじり本の寺子屋
2025/06/23
後で読む
塩尻市立図書館は22日、同市市民交流センター・えんぱーくで、思想家で武道家の神戸女学院大学名誉教授・内田樹さん(74)=神戸市=の講演会を開いた。信州しおじり本の寺子屋事業の一環で企画され、内田さんは「届く言葉とは何か」と題して語り、市民ら約140人が聴いた。
内田さんは近年、韓国で自著が多数翻訳されている一方、米国など「僕の言葉が届かない国もある」とした。吉本隆明や埴谷雄高の著書の英訳が見られないのを例に、戦後80年の日本の政治や時局を語る言論人の言葉が、構造的に届いていない現状を説明した。
グローバル化により日本国内で高等教育が英語化する現状を憂い、「植民地支配の基本。危険性を考えた方がいい」とし「新しい言葉がつくれない。イノベーション(技術革新)が起きない」とも指摘した。
理解や共感ができないことがあるのを「普通」と受け止め、「同質性」などでくくられる集団の枠を超え「他者に届く言葉が語れる成熟した市民でありたい」と語った。
自身が師範を務める武道・合気道の「居つく」という言葉から、人種や宗教、ジェンダー、政治的思考に固執せず、自在になる大切さを説いた。人と交流する上で大事なこととして、相手と節度ある距離感を保ち、「敬意と親切、正直であれば共感性が低くてもコミュニケーションが取れる」とも述べた。
内田さんは20世紀のフランス文学や哲学の研究者で、合気道七段の師範でもあり、武道と哲学研究のための学塾・凱風館を主宰している。講演会は、先月16日に聴講者の募集を開始した当日に定員に達するほどの人気だった。
