松本市内の農用地 25%が10年後の後継者不在
松本市の農用地全7579ヘクタールのうち、4分の1超の約26%(1981ヘクタール)は「10年後の後継者が不在」―。令和5年に改正された農業経営基盤強化促進法に基づき、昨年度末にまとめられた農業の「地域計画」で、足元の農地保全が危ぶまれる現状が明らかになった。昨年夏からの「令和の米騒動」を受け、国は農業のスマート化や大規模化を切り札に米増産の検討に入ったと報じられているが、山あいの農地を多く抱える市内の農業者からは「限界がある」との声も聞かれる。
「後継者不在」の農用地が約28%に上る寿・内田地区。「中山間地域」に指定された内田地籍にある農事組合法人「内田営農」の青木道夫代表理事(69)は「政治家には現場を見てほしい」と語気を強める。同法人は水稲の作付面積を減らす減反や、経営の大規模化といった国の農政に合わせ、平成18(2006)年に設立した。当初約9ヘクタールだった農地の管理面積は、個人農家の離農などにより年々拡大。現在は地区内の農地約90ヘクタールで、水稲(31ヘクタール)のほか転作作物の麦、大豆(23ヘクタール)などを栽培する。
農作業は農機を操縦する「オペレーター」に登録した40人余りの組合員が行う。会社員などの定年を迎えた人たちが主体で、約半数が70歳以上。大きな負担となるのは、農地面積の約12%を占める畦畔(あぜ)の除草作業だ。鉢伏山麓に広がる同地の畦畔は傾斜がきつく、近年の猛暑も加わって作業環境は年々過酷になっている。5年前に無線操縦の草刈り機を導入したが、45度以上の傾斜では使えず、最後は手持ちの刈払機での除草が欠かせない。
新たなオペレーターの確保による1人当たりの負担軽減も模索するが「各戸を回って参加をお願いしても『わかった』と言う人は少ない。これ以上の大規模化は無理」と青木さんは嘆く。
「米騒動」を受け、劇場化する農政には「期待できない」と冷ややかな視線を送っている。

手持ちの刈払機で除草作業をする内田営農のオペレーター。あぜ上部は無線操縦草刈り機で除草できるが、傾斜のある下部や耕地との境界付近は人手を使った作業が欠かせない