連載・特集

2022.7.2 みすず野

 暑い。とにかく暑い。7月が始まったばかりなのに、もう真夏のようだ。暑さは、しかし、ささやかな喜びも与えてくれる。あの泡の出る液体だ。湯上がりにのどを通過していく時、これ以上うまいものがあるだろうかとうなる。飲みながらの読書は格別だ◆詩人の田村隆一は、担当編集者と新宿駅から「あずさ」に乗る。雑誌の連載企画で目指すは飯田市の温泉。いつもはウイスキーを飲みっぱなしで、ずっとご機嫌なのに、今回はビールでおとなしい。上諏訪駅で急行に乗り換える。降車前に真後ろの席にあいさつする◆編集者が知り合いがいたのかと訪ねる。作家・野間宏夫妻がいたといい「重厚で、忍耐の権化が、ぼくのま後に坐っていたんじゃ、いくらぼくだって、きみと馬鹿話はできないよ」(『詩人の旅』中公文庫)。昭和49(1974)年の夏だ◆辰野駅で飯田線に乗り換える。各駅停車の駅を見て「まるで工芸品のような雰囲気は、ぼくらをまったく退屈させない」と。「小駅には、背の高いヒマワリ。みんな、南アルプスの方角に顔を向けている。そして、ばら色の雲は、いま、まっ赤に燃えて、日没」。文章にも酔う。

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