連載・特集

2022.6.28みすず野

 松高生は信州の方言「ずく」にドイツ語のガンツ(徹底的に)をかぶせて「ゴンズク」と言った。ロゴス(理性)やパトス(情熱)といった言葉を使う上級生が、カントやヘーゲルから直接習ったように偉く見えた。北杜夫さんの『どくとるマンボウ青春記』にある◆終戦の年に入学した北さんは駅伝の選考で、不得手なのに〈ゴンズクとパトスをもって走ったため、なんと選手にされて〉しまう。横田から学校まで、抜かれかかりながら死ぬ思いで走った。〈以来、私は一切駈けっこはやらない〉◆まさに動く青春記だ。松本市の旧制高等学校記念館がホームページで、昭和21(1946)年にあった駅伝の映像を公開している。箱根駅伝を松本の街なかで催すよう。火の見やぐらの後ろに映る王ガ頭の山容だけが変わらない。食べる物にも事欠く時代、空腹に耐えて走る選手はさぞつらかっただろう。笑い事ではないけれど笑ってしまった◆街が人でごった返す様子や、盛んに旗を振る学生たちの盛り上がりぶりもおかしい。北さんは卓球の選手だった。応援団長が大うちわを振り回し、試合中のボールが空中で動いたと書いている。

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