連載・特集

2022.5.24みすず野

 「のらくろ」が喫茶店のマスターになっていた―とは知らなかった。昭和55(1980)年の発表で作者の田河水泡は当時81歳。猛犬連隊に「二等卒」で入ったのが昭和6年だから、半世紀にわたって描き継いだことになる◆当初2年で兵隊をやめさせるつもりだったが、野良犬の黒吉がどんどん出世する筋書きは子供たちに大人気となり、11年かかって大尉で退役。戦争に協力した漫画家と思われているかもしれないが、けしからんと紙の配給を止めたのは軍のほうだ。さすがに犬を少佐に昇進させては具合が悪かったのだろう◆田河は妻の兄で文芸評論家の小林秀雄に「実はみんな俺の事」と打ち明けている。家庭のぬくもりに恵まれず苦労の多い少年時代を過ごした。そういえば、のらくろはどこか寂しそう。小林はウォルト・ディズニーや義弟の自身を映す仕事ぶりに、純粋で力強い〈笑いの芸術〉を見いだす(『考えるヒント』文春文庫)◆少しずつ子供や大人向けの各種催しが動き始め、紙面にも「3年ぶり」が目立つ。人を楽しませ、思い切り笑ったり泣いたり―との願いは文化の源泉であり、いつの時代もきっと変わらない。

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