連載・特集

2022.5.19 みすず野

 オリオン座とカシオペア座くらいしか分からない。今からでも遅くない。もっと勉強しよう。山の懐や海辺の野営で見上げた夜空を忘れない。星の名がいっぱいの文章に憧れる。宮澤賢治とか串田孫一とか◆漱石は明治43(1910)年5月19日、早稲田南町の家で、近づくハレー彗星に思いを凝らしていた。一方で、志賀直哉は彗星のことなどどうでもよかった―作家の尾崎一雄が全集や日記を引っ張り出して、そう推測している。彗星の尾が地球を包む日―と言いはやされ〈人々は一種のパニック感に陥った〉◆当地でも多くの天文ファンや研究者が望遠鏡をのぞき込む。先日の情報ナビ面「ほっと一冊」で山田千津子さんが『宇宙の話』を紹介し〈空を眺めた記憶は―大切な人、思い出の時間と重なっていくようだ〉と書かれていた。共感できる。星はときに狭まった自分の心を解き放ち、寂しさを和らげてくれる◆大人が騒ぐなか小学生の尾崎は、ろうそくの煙でいぶした黒いガラス片を使い、彗星を観察した。〈二度見られたら〉の願いはかなわなかった。次は昭和61(1986)年に巡ってきたが、その3年前に亡くなっている。

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