連載・特集

2022.5.13みすず野

 散歩に格好の季節である―と、田山花袋が随筆に書いている。白いツツジの花やカエデの若葉、波立つ麦畑...百年前の武蔵野も今の信州も初夏の爽やかさは変わらない。新茶の香りも味わえる頃だろう◆既婚男性の恋愛と悲哀をあらわに描いた小説「蒲団」で知られるが、花袋は健脚の紀行家でもあった。名古屋から中山道を北上し、木曽福島で盟友の島崎藤村と盆踊りを見物。翌朝9時にたつ。宮ノ越で義仲公の旧跡を訪ね、鳥居峠を越え...夕方6時には浅間温泉の目の湯でわらじ?を脱いでいる。まさに〈韋駄天〉だ◆思い思いに新緑をめでながらの散歩が投稿欄にも。ウグイスの鳴き声を聴いたり、道端のタンポポに子育ての思い出を重ねたり。モーツァルトの曲という「五月の歌」は、いつ頃まで小学校で歌われていたのだろうか。昨日の紙面で80代の女性が口ずさんでおられた。♪心もかろし/そぞろあるき―ぜひ聞いてみたいものだ◆大正7(1918)年刊の花袋著『温泉めぐり』に〈最近に子供達をつれて〉浅間に泊まったとある。青年時代の韋駄天の旅を懐かしみ、朝日に輝くアルプスの連なりを眺めた。きょうは花袋忌。