連載・特集

2022.1.20 みすず野

 「浅田さん逃げるんですか?」。27年前の神戸市長田区。松本市の飲食店経営・浅田修吉さんは、阪神大震災の炊き出しボランティアで1カ月ほど滞在した。松本に戻る日、被災者の中年女性に言われた。手を握り目に涙を浮かべていた。返す言葉がなかった◆平成7(1995)年1月17日、未曽有の大災害が起きた。月末に松本城公園で予定されていた氷彫フェスティバルのスタッフだった浅田さんは有賀正市長にイベントの中止を直談判する。開催が間近に迫っていたが「黙って」神戸に向かった。3日後に松本からの応援部隊と合流、焼け野原の片隅で早朝から夜まで被災者と全国からのボランティアに温かな食事を提供した◆松本に戻った浅田さんは行政に依存しない松本市炊き出し隊みらいをつくり、東日本大震災や熊本地震、台風19号など全国9カ所の被災地で炊き出し支援に奔走した◆神戸でかみしめた「逃げる」の言葉の真意はわからない。感謝の裏返しだったのかもしれないとも思う。ただ、今なら返事ができる。「あなたのおかげで27年間逃げずに炊き出しやってこられました」。浅田さんの目にも光るものがあった。