連載・特集

2022.1.19みすず野

 登場人物の事跡が淡々とつづられる。『渋江抽斎』を二十数年ぶりに手に取った。森鴎外の作品で一番好きだと言う人もいる。あらためて鴎外の文体の魅力を教えてくれたのは、「神様のカルテ」の夏川草介さんだ(毎日新聞・昨年12月12日付)◆〈熟練の外科医〉に例えた。引かせていただくと、緻密で鋭利。眼前の患者に共感しながらも客観的な観察や分析を怠らない―。〈正解はなく、白と黒とに塗り分け〉られない課題と向き合い〈不可能を承知で取り組み続ける〉医師同士、通じ合うものがあるのだろう◆第6波のさなか。誰がいつ感染してもおかしくない。夏川さんら病院スタッフや行政職員は極度の緊張を強いられていよう。思いを寄せることしかできないのがもどかしい。基本的な対策への一人一人の心掛けは言うまでもないが、各事業所も陽性者が出た場合の対応をいま一度、確認しておく必要がある◆鴎外は文久2年1月19日生まれ。医業と作家の両立を貫き、墓に本名以外一字も彫るべからずと遺言して60歳で世を去った。生誕160年と没後100年。再読の機会を増やしたい。ページを繰る手が止まらなくなった。