連載・特集

2022.1.1 みすず野

 文芸評論家で作家の吉田健一は正月などの日本の習慣は「最低の生活を確保しているものならば誰にでも、季節季節によって王侯の生活をさせる為に作られたのではないだろうか」(『酒談義』(中公文庫)という。意識的に狙ったのでなくても、結果的にそうなったのだと▼松のうちは休むという習慣が気持ちに余裕を与え新年を迎えたことが頭をすっきりさせる。その上で飲む酒はさっぱりしているに違いなく「王侯でも、昔は正月を待ち焦れることがあっただろう」とユーモラスにつづる▼おせちの定番の数の子は、戦後、おけに塩漬けにして室で保管し、バリバリ食べたという話を聞いたことがある。その後「黄色いダイヤ」と言われ高価な食べ物になった時代があった。子どもの頃、数の子を食べたという記憶がない▼美食家として知られた芸術家の北大路魯山人は数の子は「正月でなくても、好物として」「よろこんで食っている」(『魯山人味道』同)といい、魚卵が弾丸のように口中で炸裂するプチプチという音を「交響楽」に例えた。昭和5(1930)年の話。交響楽を味わいながら、「王侯の生活」の体験はいかが。

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