連載・特集

2021.11.30 みすず野

 会場入り口に掲げられたプロローグは「一瞬、自分の版木かと思った」と書き起こす。小紙は安曇野支社併設の山光ホールで12月5日まで、地元在住の木版画作家・小平彩見さん(48)の個展「はじまりの種から」を催している◆女の子と男の子と芽が出た鉢植え―この版木を小平さんは実家の物置で見つけた。高校で美術を教えていた父親が40年ほど前、年賀状用に彫った。絵のタッチや好みが似ている。作品の世界観も通じ合う。遠い記憶の奥底に自身の原点を見るようで、不思議な感じだったという◆一つの種が芽を吹き、大木となって葉を茂らせ、鳥を集める。空いっぱい雲が広がる。窓に映る。雨を降らす。思えば既往の人生でどれほど多くの「種」を拾い、頂き、枯らしてきたことか。もとより芸術が分からない身も会場で感慨に浸った。種はどこに落ちているかも、誰からもらうかも分からない◆大切に育てるか捨ててしまうかはもちろん個々の選択だ。「ジャックと豆の木」みたいに窓の外へ放り投げた種が―気づけばぐんぐん天へ伸びているかもしれない。版画展を見た人たちはどんな「はじまりの種」を持ち帰るだろう。