連載・特集

2021.11.24みすず野

 漱石の随筆『硝子戸の中』に、〈桐の手焙の灰を、真鍮の火箸で突ッつきながら〉とある。〈手あぶり〉は『猫』にも出てくる。火鉢か。エアコンも床暖房もない時代は火鉢だけで寒くなかったのだろうか◆拙宅の居間の石油ストーブは今季まだ一度も稼働していない。灯油代のあまりの高さに家人が「千円札2枚!昔は1枚でお釣りがきたのに」と音を上げ、使用を禁じた。仕方がないので毎朝、布団からやっとの思いで抜け出したにもかかわらず、すぐこたつに首までもぐり込む◆入る金額は決まっているため、他を削ったり倹約したりと自衛しか手がない。家計ならまだしも商売や企業活動は直撃を免れない。ボイラーを使う業種や店内の暖房、配送...ガソリン代がかかるからと外回りの距離を減らすわけにもいくまい。経費が上がった分を価格に転嫁できればいいが...。石油製品に限らず、さまざま原材料の高騰で生活必需品の値上げが相次ぐ◆長らく使っていなかった火鉢を引っ張り出し、漱石先生の寒さを体感しようと思う。さて、いつまで辛抱できるか。寒さはまだ始まったばかりで厳冬の予報も。多事多難な冬の訪れである。